
第1章:夢の始まり
「お前には無理だよ」
就職活動中に、あるOB訪問で言われたその一言が、胸に刺さった。
大学では経営学を学び、将来は起業したいという夢を持っていた。だからこそ、どこかで自分の力を試したかった。選んだのは、社員数30名ほどのITベンチャー。大手にはないスピード感と裁量があると聞いて、心が躍った。
入社初日、社長が言った。「うちは家族だ。だから、失敗を恐れるな」。その言葉を信じて、がむしゃらに働いた。朝7時出社、終電帰りの日々。それでも楽しかった。新規営業を1日50件電話し、月に1件でも受注できた日は、仲間とハイタッチして喜んだ。
第2章:挫折の連続
入社して2年目、大型プロジェクトを任された。官公庁向けの新規システム開発。これがうまくいけば、会社の信用が格段に上がる。プレッシャーは感じつつも、任されたことが嬉しかった。
しかし現実は甘くなかった。要件定義の詰めが甘く、途中で仕様が大きく変わった。社内の開発チームとも衝突。納期は守れず、顧客からの信頼も失った。
社長からは「お前に任せたのが間違いだった」と言われ、居場所がなくなった気がした。 朝、会社に向かう電車の中で涙が出た。隣の学生に気づかれないよう、顔をそむけた。
第3章:帰郷
退職届を出し、東京を離れた。5年ぶりに戻った地元は、どこか懐かしくも寂しかった。父が営む小さな金属加工の町工場。高校生の頃は、油まみれで古臭い場所だと思っていた。
しかし父は変わらず働いていた。朝6時に工場に入り、機械の音が鳴り止むまで黙々と作業している。母は昼ご飯を届け、休憩室で二人でささやかに笑っていた。
「お前、ゆっくりしていけ」
父は多くを聞かなかった。
第4章:小さな変化
暇を持て余していた私は、手伝いを始めた。旋盤の動かし方を覚え、材料の仕入れをネットで調べた。父の代わりに見積もり書をExcelで作って渡すと、「今どきの若いのはすごいな」と笑われた。
数ヶ月が経ち、取引先の社長から「最近、御社変わったね」と声をかけられた。ふと、自分でも何かを変えられるかもしれないと思った。
第5章:ふたたび東京へ
一年後、私は再び上京した。今度は製造業向けのDXを推進する企業に応募した。現場を知る自分なら、伝えられることがある。面接でその話をすると、役員の一人が「うちにはそういう人が必要なんだ」と言ってくれた。
入社後は、地味な改善提案から始めた。紙の伝票をデジタルに置き換える。社員の動線を分析して効率化する。最初は無関心だった現場の人も、「これ、けっこう便利かもな」と言ってくれた。
小さな成功体験が積み重なり、やがて新しい製造管理システム導入の責任者に任命された。
第6章:光の中へ
システムの稼働初日、トラブルはあった。でも、誰も怒らなかった。現場の人たちが「大丈夫、すぐ直るだろ」と言ってくれた。その言葉に、涙がこぼれた。
かつての失敗を乗り越え、私はようやく「誰かの役に立てた」と胸を張って言えるようになった。
3年後、私は仲間と起業した。理念は「人と現場を、もっと近くに」。かつての自分のように悩み、挫けそうな人の力になれる会社をつくりたかった。
終章:あなたへ
この物語は、フィクションでありながら、多くの現場で生まれている現実でもある。
もし今、悩みや挫折の中にいるなら、どうか忘れないでほしい。
「立ち止まっても、また歩き出せる」ということを。
誰かの今日が、光に向かう一歩になりますように。
